東欧の冬山へ。スロバキア・タトラ山地を歩く(前編)準備とアプローチ

Tatry Snow Hike Thumbnail

日本からドイツに移って二年、山に登る頻度が極端に減ったことに僅かな罪悪感を抱えていた。

デュッセルドルフの周辺にはほとんど山と言えるような場所はなく、日本の北アルプスのような山に登るには、はるか南のミュンヘンや、さらにその先のオーストリアまで足を延ばす必要があり、懐事情も影響して2018年はなかなか山に登ることができなかった。
なのでせめて年の瀬はヨーロッパの冬山で締めよう、そう決めた。

寒くて僻地な場所がいい。2012年に初めてルーマニアに旅をして以来、東欧の国々は未だエキゾチックな輝きを放っていて、今年知り合ったハンガリー人の知人からタトラ山地を勧められたこともあり、2018年最後のハイクはスロバキアで終えることにした。

タトラ山地について

タトラ山脈(ポーランド・スロバキア語:Tatry、英語:Tatra)はスロバキアとポーランドの国境に広がる山岳地帯。トレッキングやスキーを通じて現地の人に親しまれている国立公園で、冬のこの時期でも、どちらの国からも容易にアクセスできる。

1,500~2,500m付近の山々が785km²に渡って連なっていて、最高峰はスロバキア側にあるGerlachovský štít(2,655m)。ドイツに住み始めた頃からタトラ山地の存在は知っていて、日本の北アルプスを一回りだけ小さくしたような規模感に心惹かれていた。

今回、僕はスロバキア側からのアプローチを試みた。かつてはチェコと一つの国であり、それより前はハプスブルク家の占領下にあったこともある。首都のブラチスラバも一度見てみたかった。

スロバキアを選んだのは、ユーロ通貨が使えるというのも大きかった(ポーランドは独自通貨を採用している)。ただし僕の住むデュッセルドルフからブラチスラバまで直行便はなく、結局はさらに西に50km、ドナウ川を超えたオーストリア・ウィーンからアクセスすることになる。

ピークを踏まず、危険を犯さず、雪山登山と冬山ハイキングの中間のような山歩きをしたい。一日の想定コースタイムで4時間程度、リラックスした山旅で2018を締めよう。そう思っていたが、後にこの目論見ははずれることになる。

登山ルートの選定

僕は徒歩による一筆書きが好き。山頂に着いたあとに同じ道を帰ってくるのは可能な限り避けたいし、ルートの間で公共交通機関を挟みたくもない。登山口からゴール地点まで自分の足で歩き通し、温泉でその実感を噛みしめるというのが日本でのスタイルだったが、ヨーロッパにはスパなどそうそうないので、そこは我慢しよう。

今回はタトラ山脈麓の鉄道駅Tatranská Lomnicaから歩き始めて、2,000m付近にある山小屋Téryho chataまで登りそこで一泊、次の日に一部別のルートを使って、Hrebienokというロープウェイ駅まで降りてくるプランを立てた。

tatry hiking map

※上記MAPのコースタイムは夏季を想定しているので、くれぐれも冬季登山の参考になさらぬよう。

冬季の年末とはいえ、スキーヤーや観光客のためにロープウェイも運行しているし、道中のロッジも頼ることができ、そこまでシビアなルートファインディングも要求されないだろうと思っていた。結局は自分の読みの甘さのせいで、上記のコースタイムを大幅に超えて行動することになるのだが。

Tatryでの行動プラン

Day1:
Poprad -(電車)-> Tatranská Lomnica -(徒歩)-> Téryho chata(山小屋で一泊)

Day2:
Téryho chata -(徒歩)-> Hrebienok -(ロープウェイで下山)-> Stary Smokovec -(電車)-> Popradのホテルへ

今回歩いたTéryho chata周辺エリアより西にいくと、Popradski Preso(Presoは湖、の意味)というこれまた有名な景勝エリアがあり、そこまで通して歩くことも可能だ。一応は歩いて訪れる日程の余裕を持っていたのだけど、結局二日目が天候不良だったため大人しく諦めた。

装備について

冬山に登るのは本当に久しぶり。雪の北八ヶ岳を歩く想定で装備を整えた。山小屋泊なのでテントや寝袋がない分、重量はかなり軽い。

ザック

ULAのCDTをチョイスした。

ULA CDT ザック

基本的にスリーシーズン用にデザインされたザックだが、腰当て部分以外にはメッシュが使われていないし、容量も必要十分に大きい。一気室ながらサイドポケットも多く、旅と登山を兼ねたケースで使い勝手もいいので、冬山でも使ってみようということで持ち出した(しかし雪山の登山でカモ柄のチョイスはないだろう、と後から気がついた)。

ウェア

慎重に検討したのは防寒着のセレクト。宿泊予定の山小屋ウェブサイトの気温計では-7~0℃を指し示していて、極寒という感じではなかったが当日の風速によっていくらでも変わりうるので、念には念を入れる。

モンベルの軽量ダウン、Patagoniaのナノエアのハイブリッドベストとフーディ(レビュー記事)をそれぞれ装備に加えたので、化繊も合わせて3つもダウンを持っていったことになる。雨具の代わりにPatagoniaのナイフブレードジャケットもザックに忍ばせていく。いつの間にかすっかりPatagonia党。

テクニカルギア

山小屋にメールで予約を入れた際、アイゼンとトレッキングポールは最低限必要とのアドバイスをもらった。後編で書くが、1,500~2,000m付近では滑落防止のためにピッケルが必要な斜面にも出くわしたので、迷ったらよりテクニカルなギアを持っていったほうがいい。

また12月のスロバキアは午後4:30にはほぼ完全に日没となるため、ヘッドライトも必須。

ブランクというのは怖いもので、前日の眠りに落ちる直前に手袋が必要なことを思い出したり、空港でポールを忘れたことに気が付いたり、色々と初歩的なミスが多かった。

食料、携帯食

想定ハイクルート上では1~2時間おきに山小屋が営業しているので、非常用のスニッカー数本のみを持参した。スロバキアの山小屋で購入できる食事や飲料水は値段がそこまで跳ね上がったりもしないので、メインの食事はそちらをあてにした。

宿泊の準備

宿泊したのは標高2,015mに位置するTéryho chata(chataは山小屋の意味)。タトラ山脈の東側の山域にある。予約は事前に行っておいた。

Téryho chata

Dolný Smokovec 63, Vysoké Tatry 059 81

+421 949 650 315

teryhochata007@gmail.com

https://www.teryhochata.sk/

一泊二食付きで35EUR。一人一台ベッドを占有できるが、部屋は共同。ドミトリータイプとしても日本に比べてだいぶ安い。これはヨーロッパ全体というよりも、東の国の物価の安さに比例しているのだと思うが、日本だとこの倍の値段はしてしまう。貨物ロープウェイの路線もよく見かけたので、物資の配達コストが日本より低いのかもしれない。

登山口へのアプローチ

登山口までの移動経路は下記の通り:
デュッセルドルフ(ドイツ・自宅) -> ウィーン(オーストリア) -> ブラチスラヴァ(スロバキア) -> ポプラト(Poprad) -> Tatranská Lomnica(登山口)

移動だけで実質1日がかりなので、あまり効率は良くない。

おそらくポーランド側からアクセスすれば多少は短縮できるはず。また、地図上ではポプラト(Poprad)にも空港があるようなのだが、2018年12月の時点では航空便が全く検索にHITしなかった。もしかしたら夏のみの運行なのかもしれない。

ウィーン(Vienna) -> ブラチスラヴァ(Blatisrava)

特筆すべきこともないオーストリアの国際空港。ここからブラチスラヴァまではウィーン市内を経由せずにバスでいく。Slobak lineかFlixbus(欧州の格安高速バス会社)が1時間に1本程度高速バスを走らせている。空港の出口の目の前がバス停でわかりやすいが、本数が多いわけではないので時間に余裕は持っておくべき。

ちなみにこの時点でウィーンの気温は2℃。

ウィーン 気温

ブラチスラヴァ(Blatisrava) -> ポプラト(Poprad)へ

ブラチスラヴァの高速バス駅から乗り込んだトラムの終着駅に降り立つと、田舎町の市役所ほどの地味な建物があり、それがブラチスラヴァ中央駅だった。人口500万人の国の首都の中央駅はこんなものなのか、と若干の驚きを覚える。

ブラチスラヴァ中央駅

ロシア語とイタリア語が混ざったようなイントネーションのスロバキア語が聞こえ始める。チェコ語とは親戚関係にあるくらい似ているとのこと。

ブラチスラヴァ中央駅(Bratislava Hl. St.)から、拠点となる町のポプラト(Poprad)には直通列車に揺られて3.5~4.5時間ほど。高速バスもあるようだし、首都ブラチスラヴァの反対の東側にはコシツェ(Košice)という街があり、そこを拠点にした方がもしかしたら時間的に近いかもしれない。この辺はどこの国からアクセスするかで決めればいいと思う。

僕の場合はオンラインで列車の事前席予約をしていったが、席に多少の余裕もあったため、当日購入でも問題はないと思う。ちなみに高速列車の一等車でわずか21ユーロ。これで500kmの道のりを快適に過ごせるなら選ばない理由がない。

ZSSK Slovakrail

スロバキアの国営列車のWEBサイト。時刻表検索や事前予約が行える。表記は英語かスロバキア語。

http://www.slovakrail.sk/en.html

暖かい車内でうつらうつらしながら外の景色を眺めていても、取り立てて注目すべきものは見つからない。ブラチスラヴァから遠のくほどに雪深くなっていく景色は、ほとんどが田畑と、時折思い出したみたいにまばらな住居の集まりが現れるくらい。
でもこの眺めを目にするために、東欧にやってきたのだ。

列車内で出会った親子(本当は女の子が席の後ろに隠れている)。僕の目的地よりさらに先のコシツェに向かうらしい。

太陽はほとんど雲の後ろに隠れており、ポプラト(Poprad)に着く頃には降雪の真っ只中へ。厳冬期装備じゃなくて大丈夫だったかな、と不安になりだす。

以前隣国のルーマニアを鉄道旅行した際は、公共交通機関の度重なる遅延と情報の不確実さに辟易としたが、今回は時間通りに到着した。

ポプラト(Poprad)駅とその周辺。

ポプラト(Poprad)駅

町にはショッピングモールもあって、山の麓のリゾート地というよりもヨーロッパの片田舎といった風情。こじんまりとした町のそこかしこにクリスマスの飾り付けが煌めいているが、ヨーロッパは休暇シーズンということもあって、せっかくのアウトドアショップなども閉じている。普段はもう少し賑やかな町なんだろう。数少ない屋台の出店で蜂蜜の入ったワインを堪能して早々に眠りにつく。

ポプラト(Poprad) -> Tatranská Lomnicaへ

翌日。ポプラト(Poprad)の駅から登山口へ電車で移動する。車内はアウトドアウェアに身を包んだ老若男女でぎゅうぎゅう詰めだった。シャイそうな現地のおばさまの横に空いている席を見つけ、ここに座っていいですか、と訊ねると顔を背けられてしまい、構わず腰を下ろす。現地の人が多く、アジア人はもう見かけない。

電車賃は移動距離ごとに区切られていて、今回のポプラト(Poprad)から登山口Tatranská Lomnicaへ往復するチケットはわずか3EUR。

タトラ山地の周辺の公共交通機関となると、さすがのGoogle mapでも乗り換え情報はカバーしていないようで、下記のサイトが役に立った。

Rome2rio

バスや電車含めて時刻表、所要時間、金額を確認できる便利なWEBサイト。

https://www.rome2rio.com/map/Poprad/Tatransk%C3%A1-Lomnica

ポプラト(Poprad)から登山口Tatranská Lomnicaへ向かう路線では一度乗り換えを挟む。Stary Smokovec駅。ここからもTatraに歩いていくこともできる。

さて、いよいよ登山の開始。後編に続く。

後編: 東欧の冬山へ。スロバキア・タトラ山地を歩く(後編)いざ一泊二日のハイクへに続く

Written by Ryo Konishi