去る2019年8月10日から14日まで、スウェーデンで開催されたFjällräven Classic(フェールラーベン・クラシック) 2019に参加してきた。

世界各地からハイカーが集まり、Kungsleden(王様の散歩道)と呼ばれる北極圏の110kmのトレイルを歩くイベント。

数年前から北欧でロングハイクをするのが夢だった。広大なランドスケープを静かに歩く、そんなイメージにずっと憧れていた。

白夜の中24時間以内に走りきってしまう猛者、ほぼ1週間かけてスウェーデンの山々をじっくり堪能するグループ。それぞれが思い思いにハイクを楽しむ、そんな印象的なイベントだった。

少し長いけど一つの記事にまとめたので、最後まで読んでくれると嬉しいです。

Fjällräven Classic(フェールラーベン・クラシック)とは

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スウェーデンのアウトドアブランド Fjällräven(フェールラーベン) が仕掛けるロングハイクイベント。
2019はスウェーデン、デンマーク、香港、アメリカの四ヶ所開催。

スウェーデンのフェールラーベン・クラシックがイベント第一号で、2005年から開催されている。スカンジナビアの雄大で広大な自然を110km、1,000人以上のハイカーがそれぞれに歩く、他に類を見ないイベント。

食料や燃料は支給されるが、テントや調理道具など登山に必要な道具を全て自分で背負う必要がある。自己責任でロングハイクを完遂し、自然にも不要な影響は与えない、十分に経験を積んだハイカーのためのイベントといっていい。

Fjällräven Classic 2019 Swedenのコース

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Nikkaluokta(ニッカルオクタ)からスタートしてAbisco(アビスコ)でフィニッシュ。Kungsleden(王様の散歩道)と呼ばれるトレイル440kmのうち一部をコースとして使っている。

最高標高はTJäktja Passという1,140m地点にある峠で、険しい山岳地帯などは通過しない。あくまでハイカーとしての経験値と状況対応力、そして何より長距離を歩くことを楽しむマインドが必要とされる。

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各ポイントでは、最初に渡されるトレッキングノートにスタンプを押してくれるスタッフが待つテントや、トイレや食事を摂るロッジがある。

また道中の二箇所でフリーズドライとガスを支給してもらえるので、全行程の食料を常に持ち運ぶ必要はないのは嬉しいところ。

ロングハイクの準備

一番悩むのが どこまでの寒さに対応できる服を持っていくか という点。スウェーデン・Kirunaでの気温を予め予想するのは難しい。夏でも雪が降ることがある地域。
ロッジが点在してることも踏まえ、最悪の場合はリタイアすればいいかと思い、結局日本の秋の高山でテント泊できる程度の防寒着で行くことにした。

最終的な自分の装備はざっくりこんな感じ。

  • [テント]Lunar Solo
  • [寝袋/寝具]Isuka Air 280x、山と道 Pad、SOLエマージェンシーシート
  • [ザック]ULA CDT、WANDERLUST EQUIPMENT カンパラバック
  • [防寒着]モンベル ウルトラライトダウン、Patagonia ナノエア フーディ、Patagonia ナノエア ベスト、モンベル ジオライン タイツ
  • [雨具]モンベル バーサライト上・下
  • [服]着替えを3日分ほど、山と道 Stretch Mesh Cap、Teton Bros. Wind River Hoody
  • [靴]Montrail Caldrado II
  • [調理]EVERNEW Ti MUG POT 500(ポット)、ガス缶は現地調達
  • [そのほか]自作救急セット、ペツルのヘッドライト、Black Diamond ウルトラディスタンス(トレッキングポール)、SONY α7II、レンズ2本(Tamron 28-75mm&Voigtlander 12mm)、コンパスなど

これに水と食料足して14kgくらい。正直想定より重くなってしまった。それでも参加者の中では軽量の部類。すれ違うハイカーたちから「そのザックにテントも入ってるのかい?」とよく聞かれた。

公式サイトでは必須装備品が公開されるので、それを遵守した上で自分なりにアレンジしていく。

ちなみにレジストレーション会場で預けた余分な荷物は、ゴール地点のAbisko(アビスコ)でピックアップできるのもこのイベントのいいところ。

Kungsledenへのアクセス

レースの玄関口は スウェーデンのキルナ(Kiruna)空港。Kirunaの街から程近いこじんまりとした空港で、すでに北極圏内に入っている。

自分はデュッセルドルフからSAS(スカンジナビア航空)に乗り、ストックホルム空港乗り継ぎで4時間程度。意外と早く来れた。日本から来る場合もストックホルム経由になると思う。

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空港から会場まではシャトルバスが頻繁に走っている。
スタート前には、スタート地点とは別の会場でレジストレーションを済ませる必要があり、まずはそこに向かう。

Kiruna空港は大きくないし、イベント中に着けばハイカーで溢れているので、バスに乗るまで迷うことはないと思う。イベントスタッフがパネルを持って待ってくれているので、案内に従えば大丈夫。

当日のイベント参加登録

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↑Fjällräven Classic 2019 Swedenのレジストレーション会場。

参加登録と共に、地図、スタンプを押すトレッキングパス、ゴミ袋、食糧とガス缶を受け取る。

ちなみにフリーズドライの支給食はREAL Turmatというブランドのラインナップから選べるのだが、これがバリくそ美味い。これまで食べたフリーズドライで一番の味。パスタやシチューなど10種類くらいから選べるが、どれもハズレなし。初日の夕ご飯に初めて口にした時はそのリッチな味わいに心底驚いた。好きなだけ持っていくことができるが、その分重くなるのでバランスがむずかしいところ。

どの味を選ぶか迷っている人は試食もさせてくれる。

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ここからはまたバスに乗り、スタート地点のNikkaluokta(ニッカルオクタ)まで向かう。

Nikkaluoktaのロッジ。北欧っぽい温かみのあるおうち。形と色が独特な積み木みたい。

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ハイクの様子

いよいよハイクの開始。

ハイカーたちはグループに分かれてそれぞれスタート時間が決まっているのだが、早く着いてしまう人は現地でテントを張って気持ちを高めるのもいいと思う。

自分は10日の15:00にスタートした。

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みんな思い思いのスピードで歩いていく。これから東京から富士山まで歩くくらいの距離が待っているので、初日はゆっくりと。

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参加者はみんなオレンジのビブをザックに取り付けるので遠くからでも視認できる。

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雲の平や尾瀬に似た雰囲気も感じられる。

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ヘビーデューティな登山者も多い。公式サイトでは60L以上のザックが推奨されてるけど、メール確認したところ小さいザックでも大丈夫とのこと。ウルトラライト派も安心して参加できる。

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1日目の夕暮れが綺麗だったんだ。ちなみに北極圏なので夕暮れの時間がとても長い。

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我が家。今回はLunar Soloをチョイス。Black Diamondのウルトラディスタンスに自前のエクステンションを取り付けてテントポール代わりにしたけど悪くない。Lunar Soloは超軽量なのに居住性が高いのが気に入っている。「僕もLunar soloを買おうと思っているんだけど中を見せてくれない?」と話しかけてくるハイカーがいたのも嬉しかった。

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調子に乗って、コースから外れてVierranvárriというピークを目指した時。標高が高くなるにつれてガレ場になり、雨も降ってきて視界も効かず散々だった。コース通りに歩いていればこんなところまでは登らないのでご安心を。

Vierranvárriから下っていくハイカー。このエリアのあたりは完全に登山だったな。

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トレイルのどこでもフリーテント。ゴール付手前15km付近から先のアビスコ国立公園では夜営が禁止だが、それ以外はどこでも好きなところにテントを張ることができる。このせいで「今日はもうちょっと歩いてみようかな」という気にさせられる。

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青いドーム型テントが目印のチェックポイント。Fjällräven Classicのイベントスタッフが食料やガスの補給、サウナのチケットを配給してくれる。スタンプを押してもらうのも忘れずに。

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まだまだスカンジナビアの雄大な山々の谷間を川に沿って歩く。静かな風の音を聴きながら少しずつ距離を稼いでいく。

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水場の案内板。ただ水はどこでも取れるし、直接飲んでお腹を壊すこともなかった。不安な人は浄水器があってもいいけど。

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トイレは山小屋の近くにあることが多く、ハイカーはみんな使うことができる。

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Kungsleden(黄金の散歩道)のトレイルにあるロッジ全てでクレジットカードが使えた。10スウェーデン・クローナで1ユーロ弱。もともとスウェーデンは物価がべらぼうに高いので、山小屋価格はむしろ安く感じてしまう。

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↑ALESJAUREの山小屋のカフェメニュー。コーヒー一杯300円くらい。

そしてこの時期のスウェーデンは白夜。なので、歩こうと思えば一日中でも歩けてしまう。

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それでも3日目に45kmを歩いた時は、さすがにヘトヘトになったけど。

僕はテントで寝るときに数時間おきに目が覚めるんだけど、いつ天井を見上げても空が明るいというのは変な感じ。

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最後のチェックポイント、Kieronに到着。ブルーベリークレープの甘さが火照った体に沁みた。コーヒーやお茶も飲み放題。

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Kieronからゴールまでは17km。もう一踏ん張り。

ゴール直前。特設通路を進んでいくが、壁の向こうから歓声が聴こえてくる。

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ゴール!スタッフやハイカーたちから歓声と拍手のお出迎え。不思議と疲れを感じていなかったことを覚えている。むしろ終わってしまったなぁという寂しさがあった。

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この頃にはカメラの電池がもう切れてしまって満足に写真は残っていないけど、ゴール地点に併設されたレストランではもうフィニッシュしたハイカーたちがくつろいでいて、誰かがゴールするたびに拍手で迎えていてとても暖かい雰囲気が印象的だった。

ゴール後

ゴール会場のAbiskoにはレストランやホテルがあり、Fjällräven Classic参加者はシャワーとサウナが利用できるので、110km歩いた汗をしっかり流せる。

ハイク中に溜まったゴミを捨てる際には重さを計測してくれるのだが、その日で一番重いゴミを捨てたハイカーは表彰されたりするのも面白かった。毎晩ビンゴ大会やロックのライブもあったりして会場の宴感がすごい。

また、ほとんどの人は帰りの飛行機まで余裕を持って到着することになると思う。ゴール会場のすぐ隣には広めのテントサイトもあり、そこでKiruna滞在最後の一日を過ごすハイカーも多かった。僕も特に予約せずにテントを張れた。

特にゴール会場付近に何があるわけでもないが、テントを張ってレストランやサウナでくつろげるので、無理にトレイル中に到着時間を調整しなくてもいいと思う。

Kiruna空港までのバスチケットもゴール会場で予約ができる。

参加を考えている日本人の方へ

お金と休みが許すなら、気楽に参加してみることをおすすめします。

多分みんなが思うより、110km歩くって辛くない。Kungsledenはアップダウンも緩やかで難所は皆無、道もわかりやすくて迷うことがないので、登山レベルは決して高くなくて大丈夫。 今回のリザルトを見れば、120時間(5日)以上かけてゴールするハイカーもたくさんいたようだ。時速2kmで毎日11時間程度歩く計算。行けそうな気がしませんか?

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年齢層も幅広くて、50 ~ 60代のベテランハイカーも多かった。

ただし、長距離を歩く練習はしておいたほうがいいかも。100km歩くことでどんな変化が体に起こるのか。背中や足裏など普段痛まない部分が悲鳴をあげたりするので、そういった準備は必要だと思う。

フレンドリーなスタッフの存在もこのイベントをおすすめする理由。まぁヨーロッパの登山・トレイルランイベントで嫌な思いをしたことってないのだけど。もちろん英語は話せた方がいいけど、堪能でなくても命に関わることはない。ハイカー同士なのでコミュニケーションも難しくないと思う。

レジストレーション会場ではFjällrävenのポップアップストアも併設されているので、万が一なにか装備を忘れても買い足すことができる。僕は手袋を買いました。

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そうそう、参加費は240EURくらい。コース全般にわたってのサポート、食料、ガス、ゴール後の景品や、ホテルでのシャワーや交通機関のサポートもあると考えると、とても良心的な値段だと思う。

何より、世界中の人と一緒に一つのゴールに向かって歩くのはお金には代えがたい経験。110kmを歩き抜いたときの達成感は他では味わいがたいものがあります。

もしこの記事を読んで参加を考えてくれる人がいれば、相談にのりますよ。

Fjällräven Classic 2020は?

開催予定地

2019年10月31日現在、今後の開催地としてドイツ(5月)、中国(7月)、イギリス(秋)がラインナップされている。そう、僕の住んでいるドイツにやってくる!

応募開始の時期

メモを見返すと、2019は1月14日から応募を開始していた。
参加チケットは早い者勝ちで、僕は15日に登録したところ、すでに最終日出発のグループに振り分けられていた。今年の年末から公式サイトをこまめにチェックして、応募開始日をチェックしておくことが大事。

次にまた出るとしたら?

僕が来年も出るとしたら、ギアを徹底的に再考して軽量化し、35時間切りを目指したい。イベントの楽しみ方を自分で決められるのはこのイベントの醍醐味なので、レースではないとはいえ、速さを目指すのもまた楽しみ方のひとつだ。ゴール地点では各参加者のタイムが貼り出されるので、それを目当てに一位を目指すハイカーも多い。今回は19時間という化け物スーパーハイカーがいたので、そこまではいかなくても、もっと自分の限界を突破するハイクがしたい。理想はファストパッキングとかに近いかな。

Fjällräven Classicは日本人が初の海外登山としてチャンレンジできる親切さ、懐の深さが魅力で、イベントとしても洗練されている。一方で、北極圏のトレイルをスルーハイクの装備を持って自己責任で歩き抜かねばならない緊張感もある。そのバランス感が絶妙な良い意味でエッジーなイベントだと思う。

来年はドイツのイベントに参加できたらいいなと思う。

今回の写真は、

で撮りました。