ジョージアの山を歩いてきた。
人生で二度訪れた国はそう多くない。
一度目にジョージアに訪れたのは2014年、まだ東京でウェブディレクターとして働いていた頃。やたら重いNikon D700に35mmf2のレンズをぶら下げて、教会を目当てに訪れた村から眺めたカズベギ(Kazbegi)という山が美しかったのを覚えている。
9年の時を経て今度は山登りにやってきた。
歩いてきたのはスバネティ(Svaneti)と呼ばれる山域。4,000〜5,000mの山々が連なり、山脈の向こうはもうロシアだ。
コーカサスの自然とジョージア人ハイカーたちとの交流を堪能した、思い出深いハイクになった。
ジョージアとその首都トビリシ
南コーカサスに位置するジョージアを、ヨーロッパの東端とよぶか、アジアの西端とよぶか、イマイチよくわかっていない。EUと経済協定は結んでいるが、実際に歩くとアジアやイスタンブールの雰囲気も感じられて異国情緒がある。
新興国に分類されるがコーカサスの中でも経済成長著しいとのことで、首都トビリシの街を歩くと廃墟・欧風アパート・現在進行形の建築現場が混在したカオスな景観が楽しい。
何よりも飯が美味い。肉料理一つとっても自分の住むドイツと雲泥の差があり、「調理」という観点においてジョージア人の基礎力が高すぎると感じた。ドイツでジョージアレストランの人気が高まっているのも頷ける。
カフェのクオリティも高い。
自分の住むデュッセルドルフからは、6時間程度かかるものの直通便が飛んでいるのには少し驚いた。
スプリングの壊れたセダンで山岳地帯のメスティアへ
トビリシ散策もほどほどに、早速今回の登山口にあたるメスティア(Mestia)という村に向かう。
移動手段は飛行機かバス。
バスの場合は9時間もかかる難儀な旅になる。しかもバスといっても大きめのセダンがいいところ。満席だった飛行機をなぜもっと早く予約しなかったのか悔やまれる。
早朝に出て到着したのは夕方。
メスティアは村というよりは小さな街で、スーパーマーケット、警察署、銀行、ライブステージなんでもある。登山道具を忘れた場合もおそらくなんとかなりそうだ。
ジョージア国内からの観光客も多く、ホテルも文字通り山ほどあるのでオンシーズンでも困ることはなさそうだ。どこのレストランもジョージアクオリティで満足できる。
最後まで疑問だったのは、街の規模や賑わいに比べて交通機関が貧弱すぎやしないか、ということ。ただ現在のジョージアの経済状況を考えると、首都から離れた地域のインフラ整備にはもう少し時間がかかるのかもしれない。
コーカサス山脈を眺めるトレイルを歩く
今回スヴァネティを歩くにあたって、ハイランダーというハイキングイベントに参加した。
獲得標高は最高でも2,800m程度。終始トレイルはよく整備されており、マークも非常にわかりやすい。スパイクが必要な箇所も見当たらなかった。
オーバー4,000mの山々の合間を縫って静かに歩くトレイルは至福。コーカサス独特の澄んだ空気感があり、ヨーロッパアルプスとはまた異なる壮大さ、美しさに圧倒された。
誤解を恐れずにいうなら、ヨーロッパアルプスが日本の北アルプスだとしたら、ジョージアのほうは南アルプスの落ち着きと濃密さを感じた。個人的な好みはこちらのほう。
日本のような山小屋は少ないが、トレイル付近に集落が点在し、寝床と軽食を提供するゲストハウスもある。川の飲み水も問題ないとされているが、至る所に牛や豚が放し飼いにされているので、お腹の緩い自分は遠慮しておいた。
一歩自然に足を踏み入れると観光客も少なく、緑と雪と岩が同居するコントラストを楽しみながら淡々と伸びるトレイルは、近ごろの気分によく合っていた。
ハイランダーの楽しみ方
ハイランダーというイベントについては過去の記事を参照してほしい。
https://xxbxxqxx.com/post/highlander-slovenia-2022-info/
ハイカーによる自己管理とオーガナイザーにケアされるバランスが毎回楽しく、自分にとって夏の恒例行事になりつつある。
参加者が200人前後という規模もちょうどいい。自分とペースの合うハイカーの顔を覚えられるし、キャンプサイトでは気の合う仲間も見つかると思う。
今回のジョージアと、昨年のスロベニアとの違いについて書いておくと...
- マークされてより整ったトレイル。GPSがなくても歩き通すことは難しくない
- 街は通らない。村、というか集落
- アクセスがやはり大変。可能なら飛行機をお勧め
- 英語。スロベニアの方が通じる
また前日にはブリーフMTGも行われる。ただの説明会と思いきや、むしろセレモニーといった趣でこれが素晴らしかった。地元の子供たちが伝統衣装でダンスを披露してくれて、その真剣さと迫力に圧倒された。
今回10カ国から参加者が集まったとのことだが、感覚的に地元ジョージア出身者がほとんで、実質ほぼローカルイベントと言って差し支えないと思う。
重要な情報は二言語で提供されるし、特に若い人は英語も話せるので、イベント中に言語が通じなくて困ることはなかった。でも多少ジョージア語を話せた方が楽しいかも。
ジョージア人ハイカーたち
自分と歩くペースが同じだったり、到着が近いハイカーたちと自然と仲良くなった。
彼らのバックグラウンドは様々で、グラフィックデザイナー、インフラエンジニア、フォトグラファー、ヨガインストラクター...など、自然を愛する優しいハイカーが多かった。
またイベントのファウンダーの一人もハイカーとして参加しており、ハイランダーの今後、アジア展開の可能性について話をさせてもらった。
個人的に、昨年のスロベニアよりもハイカーたちと話す余裕があったのは、歩く距離が半分だったというのが大きい。毎日のチェックポイントには昼前後に到着してしまい、一人だとやることが無くて途方に暮れる。
どのキャンプサイトも日陰がなく、直射日光のもと午後を丸々一人で過ごすのはハイキング自体よりきつかったはず。出会ったハイカーたちと水浴びや村のカフェで時間を過ごすのも悪くない。砂金堀りやヨガなどサイドイベントもあったが、暑すぎて自分はパス。
自分はスポーツ的な楽しみ方をしてる人と波長があって早めに到着したグループでつるんでいたが、逆に道中時間かけて気の向くままに自然を楽しんでる人たちを見ると羨ましいとも感じた。決してレースではないので、遅く着いても暖かく迎えてもらえる。
ハイキング中に最近思うこと
今回、歩くこと自体はさして辛くなかった。しかし毎日のゴール(と歩く距離)が決められていることでキャンプ地で過ごす時間の方が長く、それが意外と心身に応えた。
何を軟弱でわかりきったことを、と思われるかもしれないが、山で歩いている以外の時間の過ごし方がどうもうまくない。自分はほんとに山が好きなんだろうか、とすら思うこともある。
毎朝、結露と汗でベタついた身体で目を覚ます度にうんざりするし、パンツ一枚履くにも四苦八苦する狭いテントも快適とは言い難い。着替えたところでどうせ匂いは付きまとうし。
トイレ探しはいつも苦労するし、そもそも街中のような清潔な便座に出会えたら感謝しなければいけない。
理想をいうなら、一日25~30kmくらい歩いて、日が暮れたらシャワーで汗と泥を洗い、清潔なシーツにくたくたな身体を包まれて眠りたい。そして夜が明ける前に起き出して、まだ肌寒い時間帯から歩き出す、そんなハイクがしたい。
仕事を長く離れることも好きではないし、日帰りでいいじゃんとも思うが、スポーツ的な達成感もまた重要な自分にとって、たかだか数十キロでは物足りなさも残る。
歩いている時間はいつも幸せなので、極力長く歩いていたい。でもこんな調子では1,000kmを超えるロングハイクは夢のまた夢だなぁ...
結局、自分は山を眺め、その中を歩くことは、やっぱり好きなんだと思う。そこに付随する、山での生活のあれこれをこなすのが、恐ろしく下手なだけで。まだ解決策は見つかってない。毎回試行錯誤。
とにかく、今回は周りのハイカーたちに大いに助けられた。
最後に
前回に訪れた時よりも、ジョージアという国の自然と内面に少し近づけた気がしている。
次に来る時はハイキングではなく、4,000m級のジョージアの山を踏破してみたい。スヴァネティ以外にカズベギという山岳地帯もあり、こちらもまた美しい。
最後に今回のアクセスやイベント情報を載せておくので、ご質問あればお気軽にどうぞ。
トビリシからメスティアへのアクセス
前もった計画が可能なら飛行機をお勧め。
https://ticket.vanillasky.ge/en/node/51
サスペンションの壊れたセダンで9時間は、山歩きより辛い。バスの車窓を流れていく旧共産圏の建造物やコーカサスの自然が唯一の救いではあるが。
なお、トビリシから途中のZugudidiまで電車があるものの、そこから山越えは結局バスになる。電車からの接続が怖かったので自分はバスで通した。
また首都トビリシだけではなく、BatumiやKutaisiなどとのバスの行き来もある。特に予約は必要ではないし、いくつかの運行会社が入り乱れている様子だった。
事前の下調べでは下記のブログにお世話になった。
https://wander-lush.org/tbilisi-to-svaneti-how-to-get-to-mestia/
山行マップ
公式サイトから行程の概要とGPXファイルがダウンロードできる。
https://highlanderadventure.com/en-us/svaneti/routes
治安、情勢
行く前には少し気になっていたロシアとの関係。しかし一旅行者として体感できるような出来事は起きなかった(街中にウクライナのペイントが多いかな、くらい)。
都会・田舎ともに野犬は多いが襲われることもない。
トビリシもメスティアも観光客が多く、人気のないところで襲われる心配も少なそうではあった。ただし色んな人がいるであくまで自己責任でどうぞ。