去る2022年6月某日、スロベニアのジュリア・アルプス(Julian Alps)を100kmほど歩いてきた。

自分でルートを決めて踏破したわけではなく、ハイランダーアドベンチャーというイベントに参加してきたわけだけど、そちらのイベントの概要や準備、注意点などについては別記事を書いているので、ぜひ読んでやってください。

こっちの記事は主に登山記、山の中で思ったことなどを残すつもり。基本は時系列で写真が多め。

登山ルートのおさらい

合計およそ100km、総獲得標高は5,500mほどのコースになっている。

Slovenia Julian Alps Map

Day1. Bohinji → Podbrdo (23.3km)

まずは前泊したホテルからイベントのスタート地点まで向かう。 スロベニアで二番目に大きい湖、Bohinjiからロープウェイで上っていく。 DSC05130

ロープウェイの終着駅、1,535m地点が初日のスタート地点。 DSC05139

イベントの受付に並ぶハイカーたち。会場はアップな音楽が流れていて、もう今すぐにでも歩き出したい高揚感に駆られる。スタート地点に着くのが遅く、もうだいぶ閑散としていたのが少し残念ではある。 DSC05149

ゼッケンと地図をもらう。 DSC05161

ハイキング中に不要な荷物については、運営に預けてゴール地点でピックアップできるので、着替えとスニーカー一式を運んでもらうことにした。 DSC05151

こちらは1日分の食料が入ったバッグ。布のバックは重さが嵩むなぁと思いつつ、記念になるので結局これも持ち運ぶことにした。 DSC05155

いざスタート。ホテルの朝食が美味しかったので出発が遅くなってしまい、最後尾に近いグループだった。まぁレースではないので気楽にいこう。 DSC05223

歩き始めて1hで、早速眺めがいい。これだよこれ。向こうの山はスロベニア最高峰のトリグラウかな。今回のイベントではあちらの方面に行くことはないけど、その雄雌が拝めてよかった。ガイドなしでも登頂できる山なので、いずれ戻ってくるよ。 DSC05245

稜線に沿って、高度を稼いでいく。今回のコースでは初日がもっとも標高的には高く、高山帯と言えるのは今日この日だけ。ペースも順調に歩いていると、他のハイカーたちに追いついてきた。みんな顔が活き活きしている(初日はね)。 DSC05305

ジュリア・アルプスといえば少なくともスロベニア国内では最もメジャーな山域なので山小屋も楽しみにしていたのだけど、道中ほとんどそのような施設は見つからなかった。なのでイベント中はみんな思い思いの場所で休憩している。スロベニアの人口は四国より少ないためか、山小屋的なものを営むのは難しいのだろうか。 DSC05321

見通しのきく、気持ちがいいトレイルが続く。6月だったけど稜線上もちょうどいい気温。「何も大変じゃないじゃん」とこの頃は思っていた。 DSC05349

同じくドイツから来たハイカーと出会う。しかも偶然似たような職業。お互いの装備や住んでいる街の話をしながらしばらく一緒に歩く。1日の中でこういう時間があるとハイクが充実する気がする。

しかも彼は歩き方が綺麗だった。途中難所で渋滞することがあっても前後のハイカーと十分な距離を取り、決して急かすような態度もせず、静かに山を楽しむ姿を見て、勝手に嬉しくなった。

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もう結構な数のハイカーを追い越したかな。イベントには総勢約250人が参加しているとあとで聞いた。 DSC05370

よーく見てみると彼女は犬を連れている。犬と一緒にハイキングってどんな感じなんだろうか。子供を連れて行くより気を使いそうだけど。 DSC05444

このあたりですでに高度は2,500m近い。稜線からはだんだん緑が少なくなり、崩れやすい岩が露出したトレイルになっていく。途中崩壊しかけた箇所もいくつかあった。

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天気は基本晴れていて、適度に雲も流れていて直射日光の時間も少なく、この日は本当にハイキングデイだった。 DSC05493

明日通過することになる街が見える。 DSC05495

ガスが巻く時間帯。この辺で一瞬ポツポツと雨粒が落ちてきたけど、なんとか持ちこたえてくれた。 DSC05525

稜線歩きが続き、途中藪漕ぎエリアも抜けたりする。 DSC05542

彼はスロベニアのマウンテンガイドらしく、こまめにGPSをチェックし、周りのハイカーをリードしていた。イベント中もすれ違うと声をかけてくれて、途中一緒に写真も撮った。下りがとにかく速かった。

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また晴れ間がのぞく。この日の最高地点に近い。 DSC05565

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今回のイベントを通じて唯一山小屋と呼べるような場所にたどり着く。日本やアルプスの西のほうと比べて色気も商売っけもない。スロベニアってフレンドリーな人が多かったのだけど、この山小屋のスタッフはスロベニアで出会った人の中で一番無愛想だったな。それでもありがたく水を買って出発する。

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さて、いよいよ1,200mの下りが始まる。ここからが中々キツかった。 この分岐も迷いどころで、何人か真逆の方に下りて行ったのが遠くに見えた(あとで無事合流できたみたい)。 DSC05618

グループに挨拶をして追いこす。まだまだぐんぐん下る。 DSC05678

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ここまではまだピースする余裕があった。 DSC05690

稜線をひたすら下降。 見晴らしが良かったのはこのあたりまで。ここから樹林帯を8kmくらい下る。他のハイカーも死にそうな顔してたな。 DSC05696

1日目のゴール。どんなに疲れていてもスタンプを押してもらうのを忘れないように。もう思うように英語が出てこないけど、スタッフの人が親切で助かった。ここで次の日の昼食までを受け取り、テント設置場所を教えてもらう。

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ビール。有料かい、と思わないでもない。でも買ってしまうよね。冷たくて染みたぁ。 DSC05716

ヘトヘトになってご飯もろくに食べずに寝袋に潜り込む。

Day2. Podbrdo → Kneške Ravne (22.7km)

朝早く歩き始めるのが好きだ。暑い時間帯をできるだけ避けたいし、人通りが少ない時に身体のギアをゆっくり上げていくことが山登りの醍醐味の一つだと思ってる。

実はこの日の朝、少し落ち込んでいた。昨日できたドイツ人の友達が、膝の痛みから2日目をリタイアしてしまった。確かに1日目の下りはハードで長かった。湿布を渡し、「Let's keep in touch.」といって彼と別れ、一人で歩き始める。

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この日最初のピークを超えて降りてきたところで、直射日光にさらされる。気温はだいたい32度くらいだったか。 DSC05748

水場。もちろん飲めるし、しばらくここで頭や足を洗って休憩させてもらった。すでに10kmくらい歩いているんだけど、ローテンションと疲れを反映してか、全然写真がない。

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このサインにはこの日何度も苦労させられた。GPXのマップと違う道を指していたり、迂闊に歩いていると行き止まりに迷い込む。僕のパスファインディングが悪かったのか、単に設置された時期が古かったのか、今でもわからない。

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何度目かのロストのあと、諦めて車道を歩くことにした。 DSC05757

だいぶ早朝に歩き出したはずなんだけど、このあたりで思いのほかたくさんのハイカーと出くわす。後から聞いたらショートカットコースがあったらしい。マジかよ。 DSC05759

この日も力を使い切ってゴール。 この辺りで気がついたのだけど、イベントに参加しているハイカーの多くはスロベニア人で、自分の他にはアジア人すらおらず、みんな僕のことを単に日本人(Japonska)と呼んでいるみたいだった。 まだ話したことないハイカーですら、2日目が終わるころには僕のことを知っていて(たぶん噂をするんだろう)、今日ショートカットをしなかったのは君だけだよ、と言ってくる人もいた。なぜどこを歩いているのか知られているのだろうと奇妙な気分になったが、嫌な感じは全くなかった。

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ご飯を作る気力もないので、支給された缶詰をかきこんで、早々に眠りにつく。

Day3. Kneške Ravne → Tolmin (18.7km)

今日のコースは18km程度と、Day1&2に比べてだいぶ控えめ。なので朝から気持ちも身体も軽い。登りはほぼないトラバースから始まり、下りも控えめ(あくまで比較的に、だけど)。しかも到着地は街だ。別にすることもないんだけど、なんとなくテンションが上がる。

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今回のスロベニアでの山歩きを通じて、個人的なULハイクの限界が見えてきた。

1日歩き切った後に非自立式のテントを建てる元気はないし、ちゃんとした夕飯を作って夜のひとときを楽しむよりも、早く寝て早く起き、できるだけ長い時間を歩くことに費やしたい。テントにいる時間もあまり楽しいと思ったことがない。 服が臭いとやる気も削がれるので消臭剤や着替えも欲しい。 写真を撮るのも楽しみの一つなので、ちゃんとしたカメラは持って行きたい。 たかが数十グラムのために装備を買い替えるのも馬鹿らしい。

そう考えると、ベースウェイトは7kg、いや8kg台になってしまうだろう。水・食料や消費財も足して13〜14kgのバックパックを背負う体力を今後はつけていかなければいけない。

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標識の「E7」とは、ヨーロッパに点在するロングトレイルの一つ。東はセルビアやブルガリア、西はスペインまで、6,000km以上も延びている。このような国を横断したロングトレイルがヨーロッパにはいくつもある。

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途中、チーズを作っている酪農家の山小屋に少しお邪魔した。何か買いたかったがこのクソ暑いハイキング中に生ぬるい牛乳は遠慮した。

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ここ7,8年愛用しているブラックダイヤモンドのウルトラディスタンス(以前フランスに置いてきたことがあるので一度買い替えているけど)。今回こいつがいなければリタイアしていたかもしれない。2022年現在でもこれより軽いポールを見つけるのは難しいし、折り畳むと非常にコンパクトになる。長さが変えられないので、Lunar Soloのポールとして使うときは2つをガイラインで無理やり連結している。 DSC05895

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ゴールとなる街、Tolminが見えてきた(意外とすぐには着かなかったのだけど)。 DSC05897

キャンピングカーを乗り入れられるようなテントサイトが今日の終着点。シャワー、レストラン、そして清潔なトイレもあって、リフレッシュ完了。こういう施設が3日目にあると嬉しい。 DSC05920

この日は昼の12時前後には到着してしまい、写真もあまり撮っていないが、他のハイカーたちとランチやディナーを楽しんで、良い中日になった。スロベニアはイタリアと近いせいか、どこでピザを食べても美味い。

スロベニアの諺で「テーブルにのっていれば、もうそれはみんなの食べ物だ」というような言い回しがあるらしく、空手黒帯のスロベニア人からピザとビールをご馳走してもらった。そんな彼らも今日でリタイアするとのこと。

Day4. Tolmin → Kobarid (32.2km)

4日目は朝5時半に起床。本当はゴールまでの残り32km、2つのチェックポイントを2日に分けて歩くつもりだったのだけど、寝起きから身体も軽く、あとぶっちゃけもう早くシャワー浴びたいってのもあって、今日1日で歩き切ることにした。

そうと決まれば、そそくさと準備を終えて太陽が上がりきらないうちに歩き始める。

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エメラルドグリーンの川沿いをしばらく歩く。水と空気が美しすぎて、本当はもっとここでゆっくりしたかったけど、なんと言っても今日は30km以上の距離を残しているので、先を急ぐことにする。

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前を歩くのはこのイベントのアンバサダーも務めているオランダ人のカップル。数ヶ月後の別のハイランダーにも参加するらしい。わざわざ車で来たとのことで、自分だったら100km歩いた後に運転する気力なんて湧かないだろうな。 DSC05965

今回のイベントは本当に天気に恵まれた。 DSC05966

小さな集落をいくつも抜けて、この日最初のピークに向けてまた高度を上げていく。 DSC05974

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ピークは地味で静かに通り過ぎてしまった。ここからの稜線はそのままイタリアとスロベニアの国境になっている。途中からあまりに陽が照ってきたのでイタリア側の車道に避難して木陰を歩いていた。 DSC05990 DSC05995

最後のチェックポイントを通過したのだけど、急いでいたので写真をほとんど忘れてしまった。この時点では、自分が最初にチェックポイントに到達したハイカーだったらしく、地味に嬉しい。

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この辺りはもうイタリア側。 DSC06017

こういうの見るとイタリアにいるんだなとわかる。 DSC06028

また村というか集落を越える。カフェすら全くないんだな。 DSC06035

初日に歩いてきた山域がもうだいぶ遠くに見える。 歩いてきた稜線を眺めながらフィニッシュできるなんて、主催者のコース選びがうまい。

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長かった山々をようやく抜け、最後の街Kobaridのフィニッシュポイントまであと2,3km。

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この橋を越えたらゴールがもう見えるはず。 DSC06093

ゴール。スタート地点と比べて地味だな、というのが最初の感想だったけど、あぁやっと終わった、という感慨深さがある。 DSC06097

割と早めにゴールしたので、他のハイカーもあまりいなかったので、数人でささやかに喜びを分かち合う。しずかで少し拍子抜け。でもゴールはゴール。やりきった。

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自分へのご褒美。 DSC06094

ハイクを終えて。

たくさんのハイカーと長い距離を一緒に歩いていると、自分の歩き方の特徴や得て不得手がだんだんとわかってくる。 どうやら自分は、瞬発力の代わりに持久力があるタイプなんだろう。長い登りを一定のペースで淡々とこなすことは他の人に比べて得意かもしれない。逆に下りでは何人にも追い抜かれたし、長い下降はあまり好きではない。

また、大きな怪我なく終えられたのもよかった。3日目のレストランでクロアチア人のハイカーと話しているとき、僕が「みんなよく涼しい顔して歩いてるよねぇ」というと、「そういう風にふるまっているだけだよ」と彼は自分の靴下をまくり、湿布や絆創膏だらけの足を見せてくれた。膝や脚の問題で毎日誰かしらリタイアしていくし、こういうハードな距離が数日続くイベントでは、ペースを上げすぎずに身体を労わりながら歩くのが大事なんだと再認識した。

イベントを通じて周りのハイカーたちとのコミュニケーションを楽しめたのも個人的には大きな喜びだった。自分は人見知りなので彼らのオープンさにだいぶ助けられ、出会う人を通じてスロベニアが大好きになったし、ほとんどの人が英語を話せるもの気楽だった。

ハイランダーの開催地は世界中に広がっているので、来年はぜひ別の国、例えばクロアチアやギリシャ、モロッコあたりに参加してみたいと思っている。