今年2022年の6/25-6/28まで、スロベニアのジュリア・アルプス(Julian Alps)を100km歩くというイベント、Highlander Adventure(ハイランダーアドベンチャー) に参加してきた。
スロベニアの山域、ましてやHighlander Adventure(以下ハイランダー)というイベントについての日本語情報が皆無のため、興味のある方向けに登山情報・必要な装備・歩いた感想などをまとめます。
写真メインの登山記はまた後日あげるつもり。
Highlander Adventureって何?
東欧・クロアチア発のワールドワイドなハイキングイベント。初めての開催が2017年と歴史としては非常に若い。 100km、55km、30kmコースの三種類があり(開催地によって一部のみ)、ハイカーはそれぞれ選んだコースを数日かけて歩く。 レースではなくハイキングイベント のため順位はなく、各チェックポイントでスタンプをもらい、ゴールしたハイカー全員がバッジや証書をもらえる。
走ったり競ったりする必要がないなら楽かと思いきや、実際に歩ききってみると ハイカーとしての経験値が求められる、非常にタフでハードなイベントだった。
僕の参加した2022年のスロベニアでの参加者は250人。トレイルで渋滞のストレスを感じることもなく、周りの人とコミュニケーションもとりやすい、ちょうどいい規模だったと思う。
支払った参加費用は177.45ユーロで、これは開催地、申込時期、選んだ距離によって変わる。なるべく早く申し込むとEarly Bird割引がある。
参加資格は無し。老若男女が参加できるイベントで、コロナ明けから規模も拡大させている。スロベニアもソールドアウトしたとのこと。
同じく100kmを歩くハイキングイベントという意味で、以前に記事を書いた Fjällräven Classic(フェールラーベン・クラシック) と似ている。
スロベニアとJulian Alpsについて
スロベニアっていまいち日本人には馴染みがない国な気がする。
四国とだいたい同じ国土面積に、人口はわずか210万人しかいない(ちなみに四国の人口は369万人)。
地理的にはオーストリア、ハンガリーなどの国々に囲まれ、東欧の一部とされることが多いと思う。 今回の歩いたコースでは稜線を越えてイタリアにも入る区間があった。
首都のLjubljana(リュブリャナ)もどちらかというと"規模の大きい街"といった風情。騒がしくなくて個人的には好きな雰囲気。
今回旅をしてみて、自然が観光資源のオシャレで大らかな小国、というのがスロベニアに抱いた印象。
その中でもJulian Alps(ジュリアンアルプス)はヨーロッパアルプスの東端を担っていて、最高峰はTriglav(トリグラウ)の2,864m。
近くには国内最大の湖Bledや今回の拠点となったBohinjiなど水辺のリゾートも多く、他の国からキャンピングカーで旅してくる人も多かった。
言語については、スロベニア語が公用語だが、ほとんどの場面で英語が通じる。
なのでコミュニケーションで困ることもないし、通貨はユーロだし、例えばドイツやフランスに比べても旅行しやすい国だと思う。
ハイランダーのルート
今回のルートをさくっと描いてみました。
※上記はあくまでイメージで、正確な地図ではありません。
およそ100kmのコースを、始点終点含む 五つのステージ(チェックポイント)で分割 している。
- ステージ1: 23.3km(チェックポイント1 → 2)
- Up 730m
- Down -1,610m
- ステージ2: 22.7km(チェックポイント2 → 3)
- Up 1,382m
- Down -927m
- ステージ3: 18.7km(チェックポイント3 → 4)
- Up 648m
- Down -1,548m
- ステージ4: 18.8km(チェックポイント4 → 5)
- Up 1,190m
- Down -360m
- ステージ5: 13.4km(チェックポイント5 → Final)
- Up 690m
- Down -1,380m
見ていただくとわかるとおり、ステージ1, 2の負担がすごい。特に1。
1日で複数ステージを攻略してしまってもルール上問題ない。ただしチェックポイントはキャンプサイトに設置され、道端でのテント設置は一応禁止されているので、必然的にスケジュールが決まってくる。
まぁ単純に長い距離を歩くのならなんとかなるんだけど、むしろ重要なのは 獲得標高と下降標高 だと思ってる。
今回だけで ヨーロッパ最高峰以上の標高を上ってる 訳で、かつそれ以上の 6,000m程度を下る ことになるので、体力的に非常にシビアなイベントだと言える。
今回自分の把握している限りでは、4日目にチェックポイント4と5を一気に踏破してゴール 、という人は一定数いたが(自分もこのパターン)、ほとんどのハイカーは5日間をフルに使って1ステージずつ歩いていた。
スタート地点は、スロベニアで2番目に大きい湖であるBohinjiからロープウェイで上がったところ。
ルート中の最高標高は1,963mのMount Rodica で、スロベニア最高峰Triglav(トリグラウ)には登らない。一件控えめなルート設定にも見えるんだけど、実際に歩いてみると、高度感や景色のスケール感は日本の3,000m峰と遜色がない。
標高差のおかげで、高山帯、樹林帯、川沿いなどバリエーションに富んだ山歩きが楽しめる。
ハイランダーに向けた準備
ハイランダー参加に向けて必要なプロセスは下記。
- 参加申し込み ... WEBから可能。定員と早期割引があるため、余裕を持って申し込むのがおすすめ。
- 装備品チェック ... WEBに掲載されている所持品リストの準備。普通の夏の高山装備で問題ないが、テントなど早めにチェックしておくに越したことはない。
- コロナ情報チェック ... 2022年6月現在、スロベニアはほぼコロナ規制がないようで、マスクの着用やワクチン証明を求められることは皆無だった。当然時期によって状況は変わるので、各自要確認。
- 移動手段の確保 ... スロベニアの首都Ljubljana(リュブリャナ)からスタート地点の麓のBohinjiまでバスもしくは電車が出ている。アクセス方法は後述。
持ち物
必須の持ち物リストはWEBで公開されており、基本的にはそれに従えばOK。
参加費用に含まれるもの
- レスキューサービス ... On duty Croatian Mountain Rescue Service (HGSS)
- イベント中の食事 ... 1日3食 + 時々ビールやコーヒーなどが各チェックポイントで配られる
- 荷物の輸送 ... スタート地点からゴール地点までイベント中に不要な荷物を預けられる
- 紙の地図、防水カバー
- (ゴールした場合)ピンバッジ、証明書
個人的に強く勧めたい持ち物
イベントを歩き通してみて、下記はほぼ必須だと感じた。
- GPSデバイス ... GPX地図をインストールでき、自分の現在地が表示されるもの。自分はiPhone+Alltrailsアプリを使った。
- 電子機器チャージャー ... 途中一箇所充電できるチェックポイントがあるが、前述のGPSがわりと生命線のため、持っていった方が安全。
- 日焼け止め ... 6月で34度超えの気温。しかも稜線・コンクリート道路の長い区間がある。
- 虫除け、痒み止め ... 詳しくは別記事にする予定だけど、ヨーロッパには危険なダニがいるため、できるだけ肌を出さない & 寄せ付けない方法が必要。
- 大きめのガスカートリッジ ... 食事は支給してもらえるが、ガス缶は自分で用意する 必要がある。4~5日間の間使える大きめの容量のガスカートリッジがおすすめ。ただし、温めなくても食べられるご飯(缶詰、果物、エナジーバー、お菓子など)があるため、あえてガスバーナーごと持っていかない選択肢はアリだと思う
- トレッキングポール ... これがないと歩き通すのは無理だったと思われる。体重分散、姿勢の制御と踏ん張り。体力は少しでも温存しよう。
逆になくてもよかったアイテムたち
- 暖かい寝袋 ... 寝袋自体は必要だけど、キャンプ地の標高が高くても900m前後なので、高山用では暑すぎた
- 食事用の皿 ... 容器がなくても食べられるものばかり食べていたので、個人的には次回は持っていかないものの一つ(カップラーメンや缶詰が好きなだけもらえる)。
- 1日分以上の行動食 ... 先述の通り、毎チェックポイントで行動食含め配ってもらえるので、それ以上は重荷になる。
- 軽アイゼン、チェーンスパイク ... 今回のルートでは標高2,000mを超えることがないため、6月だったけど全く使いませんでした。短い雪渓すらナシ。
現地へのアクセス
スロベニア空港に着いてスタート地点までの交通手段は下記のような感じ。
スロベニア空港
↓ シャトルバス: 約40分、12ユーロ
首都Ljubljana(リュブリャナ)のバス中央駅
↓ バス: 約2時間30分、8ユーロ(確か)
Bohinji湖
↓ ロープウェイ: 10分、10ユーロ
Restaurant Viharnik(イベントスタート地点)
ちなみに自分はBohinji湖で前泊した(Chillingで美しい湖のリゾートなのでおすすめ)。
ハイランダーの良かった点
(1) 景観と起伏に富んだコース設計の上手さ
アルプスの稜線、樹林帯、トラバース、田舎の家々を縫う道路、エメラルドブルーの川沿いの小道など、バリエーション豊かな山歩きが堪能できる。スロベニア・アルプスのハイライト詰め合わせ。
知らない国で今回のようなコースプランニングは難しいと思うので、イベント主催者がハイキングをお膳立てしてくれると思えば参加費もリーズナブル。
(2) イベントのアットホームな雰囲気
自分が話をしたハイカーに限った感覚値だけど、イベントの参加者の半分以上はスロベニアの人のようだった。 スロベニアの気質なのか、とても気さくでオープンな人が多く、アジア人ただ1人の参加者の自分でも特に居心地の悪さを感じることなく、友達もでき、楽しくイベントを終えられた。
スタッフは皆さん親切で英語も堪能だし、後半に向けて顔見知りも多くなってくるので、非常にアットホームな雰囲気の中ハイキングを楽しめる。
日本人というだけで目立つので、イベント中盤になると、何時ごろどこ歩いてたかを色んな人が知ってる状態になってたのは笑うしかなかったけど。
スロベニア以外だとクロアチア、イギリス、ドイツ、オランダからもハイカーが集まっていた。
基本的に英語ができればハイカーたちと会話ができるはず。途中みんなでご飯を食べる日があるので積極的に話しかけてみるといいかも。
(3) 随時補給できる水と食料
このイベントでは、各チェックポイントでご飯がもらえる。 食事もできる限りのバラエティに富んでいて、エナジーバー、カップヌードル、フルーツ、フルーツジュース、パスタ、缶詰、パン、お菓子、水に溶かすビタミン、ビールなどなど。
さらに三日目はJota(ヨタ)というスロベニア料理をみんなで食べます。
水は各チェックポイントや道中の水道で補給できる。川の水そのままとかではないのでお腹を壊すこともなかった。汗っかきの自分は常に最大2.5リットルほど持ち歩くようにしていた。
逆に、道中に山小屋的な施設が1箇所しかなかったので、ほとんどお金を使うことはない。
また、各チェックポイントにはゴミ箱を設置してくれるのも非常に嬉しい。
ハイランダーで注意すべき点
逆に、注意すべき点もいくつかある。名前に「Adventure」と入っている通り、ハイキング上級者を対象としている感があるので、気になった点を書いておく。
(1) 難易度はやはり高い。
割と、いやかなりキツい。上りが多いのもそうだけど、問題は下り。1日目から1,200mもの高さをダウンするため、折角できた友達の一人は膝を痛めてリタイヤしてしまった。
平地ではなく北アルプスを100km歩くと考えるとわかりやすい。しかも1日ごとに標高1,000mまで降りなくちゃいけないのがしんどい。
ちなみに初日が最も景色の眺め、トレイルのバリエーション的に富んでいて、同時に最も過酷な行程だった。
必要なスキル
主催者がいるイベントではあるが、山での行動は基本的に自己責任と考えるべき。 経験値が必要と先に書いたけど、具体的にどういう点か分解してみる。
- 30度以上の炎天下でも連日10時間歩き続けられる体力
- 1,000m以上の下りを複数日こなしても壊れない膝
- 必要な分だけの食糧と水を計算する計画性
- ルートファインディング + 道が見当たらない箇所でもヘコたれないメンタル
- 最低限の英語。緊急時用の電話番号もあるが状況を説明できないといけないので。
(2) 地図の不備は自分でカバー。「ゴールが見つからん...」
大きな問題だと思ってるのがここ。 ※あくまで2022年のスロベニアのイベントただ1つをサンプルとした主観です。
WEBではGPXマップが公開されており、事前にダウンロードできる。
ほぼどのグループも一人はGPSデバイスを持っていたと思われ、困ったらそれをみてルート策定をするわけです。
一方で、スタート地点では紙のマップももらえる。カラフルでわかりやすいんだけど、なんと最後のゴール地点のピンが間違っている。GPXのほうで示されるゴールが正解で、1km以上離れているため誤差の範囲とは考えづらく、そもそも入力ミスしているはず。自分は100km歩き切った後に1時間弱ゴール地点探しに費やし、複雑な気持ちを抱えたまま歩き終えることになった・・・笑
スタッフに報告したところ「あら間違ってるわね」で終わり。自分の後からゴールするハイカーたちは大丈夫だったのだろうか?
では 常にGPXを正とすればいいのかというと必ずしもそうではなく 、チェックポイント4の位置でこれまた紙とGPXの差分があり、今回は紙のマップの方が正しい。なんだそれ。チェックポイント4は道路から奥まったところにあり危うく通りすぎるところだったし、本来の推奨ルートからも結構離れていた。
そもそもGPXの推奨ルート通りに歩いていても道がないことや通行止めになってた箇所もある。自分は朝早く歩くのが好きなので、イベント後半は割と先頭付近を歩くことも多く、そうすると「この細い道の先は果たして繋がってるのか?」という不安が常に付き纏ってしまう。
もちろんGPXの推奨ルート以外にチェックポイントを繋ぐ道は多数あり、他のハイカーたちはどんどんショートカットしていた。
特に山道と道路が並行してる時などは、ルートファインディングをしなくていい気楽さもあり、自分もそっちを歩いたりしていた。その辺も自己判断で、徒歩のショートカットであればルール違反にはなりません。
限られた数のスタッフで行程を完璧に詰めるのは無理だとは思うが、今後せめてチェックポイントの位置情報はしっかり是正してほしい。
幸いスタッフは気軽に話せる人ばかりなので、次の日のルート確認を毎日しっかりしておくことをお勧めする。
結論。オススメするか、しないか。
登山の経験値があって自信がある人(もしくはそんなメンバーが1人でもグループにいる人)にはぜひオススメしたいイベント。
スロベニアってなかなか行く機会がないし、どちらかというとスイスやイタリアに流れてしまいがち。ただヨーロッパの3,000mを超える山域になると、ピークを踏むのではなくその周りを周遊するトレイルになってしまい、少し物足りない。
その点スロベニアは、最高峰Triglav(トリグラウ)含め自分の脚で(かつガイドなしで)ピークを踏めるし、標高3,000m以下といっても日本とまた違う自然の雄大さがある。 自分はかなり満足できたので、来年は違う国のハイランダーに参加するつもり。
登山やハイキングの初心者、例えばテントを背負って自力で北アルプスの3,000m峰を往復したことがない人なんかは、正直控えた方がいいかもしれない。
もっと易しいイベントやトレッキングルートがあるし、例えばFjällräven Classicなんかはもう少しイージーで危険度も少ないかもしれない(ただ倍率が高いけど)。
歩き切った後の達成感、飽きることない雄大な景色、イベントの雰囲気など、総合的に良いイベントだと思っているけど、やはり同時に求められるスキルと経験値は低くないので、誰にでもオススメはできない。もちろん途中リタイヤもできるけど、せっかくなら歩き通したいしね。
最後に
以上、長々と書いてきたけど、ハイランダーへの参加やスロベニア登山を考える人の参考になれば嬉しいです。
またここ数年、日本でもロングトレイルの整備と拡充が進んでいるようなので、今後こういったイベントも出てくるかもしれない。トレラン以外だとすでにOMMがあるけど、順位も出ない、かつハードなハイキングイベントを欲している人も多いはず。 チャンスがあれば、ぜひ手伝いたいなぁ。
↓イベント中の詳細な写真や登山記は別の記事にまとめたので、ご興味ある方は読んでみてください。
スロベニアのアルプス100kmを踏破する - ハイランダーアドベンチャー参加ログ (2) 写真/登山記編 https://xxbxxqxx.com/post/highlander-slovenia-2022-hike/