ドイツ南部、オーストリアとの国境沿いに広がるエリア、アルゴイ(Allgäu)の山に登ってきた。
時期的にはスロベニアより前の2022年6月中旬。ちゃんとした夏山登山は2年ぶり?だっただろうか。
最高標高は2,600m前後と日本の北アルプスに比べても控えめだったため「まぁ肩慣らしに行ってくるか」程度の気持ちだったのだけど、完全にドイツの山を甘くみていた。 ヨーロッパの本場アルプスを遠くまで見渡せて、日本の3,000m峰にも勝る迫力と山容に圧倒され、結果大満足のハイクになった。
ドイツのアルゴイ(Allgäu)地方について
ドイツ南部、バイエルン州に広がる自然豊かなアルゴイ地方。 アルプスの一部になっていて、もうすぐそこはオーストリア。今回登った山域の稜線もそのままドイツとオーストリアの国境になっている。 自分の住んでいるドイツの北部とは言葉や文化も異なる部分が多く、例えばHelloの代わりに「Servus」といったりする。 近くにはミュンヘンやケンプテン(Kempten)といった街がある。
登山ルート & スケジュール
今回は2022年の山初めということもあり、二泊三日のコンパクトな行程を組んだ。
- Day1: Oberstdorf → Waltenbergerhaus(1日目山小屋)
- 歩行距離: 6.7km
- Day2: Waltenbergerhaus → Enzianhutte(2日目山小屋)
- 歩行距離: 11.1km
- Day3: Enzianhutte → Fellhombahn Brucke(バス停)
- 歩行距離: 8.4km
総歩行距離26.2km、獲得標高1,986m程度の比較的軽い内容。 最高到達標高はMädelegabelの2,645m(アルゴイの中で4番目に高い山)。 短い中でも牧場、樹林帯、ガレ場、雪渓とバリエーションに富んでいて、難易度的には八ヶ岳よりやや上級者向けと思われる。
アルゴイへのアクセス
自分の住んでいるデュッセルドルフからはDeutsche Bahn(ドイツ国鉄)で5~6時間程度かかる。やっぱり頻繁に山登りにいくには少し遠いよなぁといつも思う。ドイツには新幹線もないし。しかもDBは頻繁に遅延するので、常に余裕を持った行程を組む必要があるのもストレスの種。
デュッセルドルフ
↓ Deutsche Bahn 約5~6h
オーベルストドルフ(Oberstdorf)
↓ ローカルバス 約30min
Alpe Eschbach(登山口)
登山の事前準備
山小屋の予約
ドイツの山小屋において事前の予約は必須。 訪れてみたかった山小屋のいくつかは5月の時点でベッドが埋まってしまっており、スケジュール調整が必要だった。
今回調べた限りでは、アルゴイの山小屋はウェブサイトかメールアドレスで予約が可能だった。ドイツ語サイトをGoogle翻訳しつつ、英語でメールを書いたりして無事ベッドが予約できた。
部屋の構成は日本の山小屋と似ていて、雑魚寝のスペースか独立したベッドのオプションがあるところが多い。基本的に夕食・朝食もついてくるし、レストランが大体併設されているのでご飯に困ることはない。
またコロナの状況確認も依然として重要。自分のタイミングでは各ハイカーによる寝袋の持参が必須だった。
持ち物
基本的には北アルプスの山小屋泊に行く想定で準備をしておけば大丈夫。
重要だったもの
特に重要だった持ち物をピックアップしてみた。
- チェーンスパイク ... 特に標高2,000mを超えたあたりから雪がかなり残っており、しかも前日の雨と気温でぐずぐずの状態だったので、これがなければ歩けなかったと思われる
- 現金 ... ほとんどの山小屋ではカードが使えない。現金(ユーロ)は必携。
- マスク ... あくまで執筆当時(2022年6月)の状況として、バイエルン州では公共交通機関でのFFP2マスク着用が義務になっていた
- シュラフ ... これもおそらくコロナ禍での特別措置だと思われるが、一部の山小屋では自分の寝袋を持参してそれをマットレスの上に敷いて寝るルールだった
- タオル ... 持ってはいかなったけどあればよかったものとしてバスタオルがある。一部の山小屋ではしっかり温水のシャワーを浴びることができるので、体を拭くタオルがあればよかった
逆に重要ではなかったもの
- 調理道具 ... どの山小屋にも調理エリアはなかった。スタッフに尋ねたところ、道でやるしかないとのこと。今回の二泊三日でも調理器具を使っているハイカーを見かけなかったし、調理不要の行動食と、しっかりしたご飯は山小屋で楽しむと割り切るのがいいと思う。
アルゴイ・ハイキングログ
実際に歩いた様子を、写真とともに紹介します。
Day1. Oberstdorf → Waltenbergerhaus : 約6.7km
アルゴイ登山の拠点となるオーベルストドルフ(Oberstdorf)駅。思っていたよりしっかりめの駅で、キオスクでパンや水、簡単な食料を買うことができる。ただそんなにゆっくりするような場所はない。
オーベルストドルフ駅前のバス停からは、約30分に一本の頻度で登山口までローカルバスが出ている。アフターコロナの特別措置としてドイツでは期間限定で9ユーロチケット(月9ユーロでローカル公共交通機関が乗り放題)を買うことができるのだけど、それで問題なく乗車できた。
バス停の目の前は、ほうぼうから牛の鳴き声が響く牧場だった。
早速歩き始めるも、正午を過ぎると天気がぐずつきはじめた。幸い雨脚は強くならなかったが、テンションが上がらないまま歩き続ける。
山小屋が見えたころ、同時に雨も止み、晴れ間がのぞきはじめる。
この時点でもう17時くらいなんだけど、ドイツの夏は陽が長いので、みんな行動時間を遅くまでとっている(でも油断は禁物)。
撮影スポットのような十字架(誰もいなかったので自撮りをした)。
初日の宿になる Waltenbergerhaus に到着。
この日の夕食。別途コース料理もあるらしかったけど、パスタの気分だったのでボロネーゼを注文。家族でやっている山小屋で、唯一末っ子が英語を話せて、その子が頑張ってアテンドしてくれた。標高は2,084mなので寒くはないし、日本の山小屋に比べて建て付けが非常にしっかりしているので、隙間風などもなく、屋内は普通のホテルと変わらない感じで過ごせた。トイレがめちゃくちゃ綺麗だったのも助かった。
Day2. Waltenbergerhaus → Enzianhutte : 11.1km
朝食は軽く済ませて、早朝から登り始める。
山羊(ドイツ語ではシュタインボック。英語のアイベックスといったほうが通じるかも)の群れに出くわした。実際に目の前にすると迫力があり、トレイルに立ち往生されてしまって少し停滞したりも。
峠を越えると、ドイツとオーストリアの国境を示すサインを見つけた。Öがオーストリア(Österreich)、Dがドイツ(Deutschland)。
雪渓がなかなかエグいのが見てわかると思う。おまけに前日の雨でぐずぐずだった。
2,645mの山、Mädelegabelまで向かう。
ずっと稜線が続く。今回歩く方向とは逆。この日、この時間帯が一番天気が怪しかったが、この後は綺麗に晴れた。
しばらく稜線沿いに歩き、後ろを振り返るとなかなか迫力がある。
2,605mのBockkarkopf山頂。ここがほぼ360度ビューで空も抜けるように青く、直射日光が厳しかったが、少し休憩。気持ちよかった。
一人休憩している女性がいた。親切で写真を撮ろうかと申し出てくれたので快諾。向こうに見えている出っ張りまでさらに歩いていく。
ドイツ語で「See」は湖の意味。水量は多くないけど水浴びをしている家族がいた。ビールだけ飲んで先を目指す。
2日目の宿泊先 Enzianhutte に到着。
山小屋でビール片手に一息つく。どこの山小屋だけど、ここは特にスタッフがフレンドリー。サウナ、温水シャワー、サンデッキなどがあり、もう下界のロッジとそう変わらない快適さ。
今回わかったことは、ドイツ南部はどこもご飯のレベルが高い。ただのハンバーガーかと思ったら、チキンの味付けなのかグリルの焼き方なのか、とてつもなく美味しかった。
それにしても、ドイツの山小屋って一人の客が全然いない。スタッフに聞いてみると「確かに大体家族か友達で来る。全然一人で来てもらっていいんだけどね」とのこと。
Day3. Enzianhutte → Fellhombahn Brucke : 8.4km
美しい朝焼けが見える。この日も快晴。
山小屋前に設置された鹿のオブジェ。
トラバースのトレイルでゆっくり高度を下げていく。この日が一番暑かった。麓の街は30度以上。
街が見えてきた。
サイクリストもたくさん見かけたので今度は自転車で登るのもよさそうだ。
樹林帯を抜けて、無事下山。ふりかえると、歩いてきたアルゴイの山々が見える。
街に戻り、シュニッツェル(ドイツ風トンカツ)とビールで一人お疲れ会。
振りかえり & アルゴイの山登りを考える人へ
2,500m付近という標高から想像されるよりはハードな山行になった。その分短い工程で充実した山歩きが楽しめた。
注意するべき点としては、テントが許可されていない、噛まれると危険なダニの存在があるけど、ドイツに住んでいるハイカーにはぜひオススメしたいエリア。
今回のエリアの中での最高峰である Mädelegabel までの登りはテクニカルで高度感もあるので、槍ヶ岳などに問題なく登れる程度の鍛錬は必要だと思う。 それ以外のトレイルは歩きにくい箇所もなく、樹林帯含め迷ったりすることもなかった。夏の休日であれば他のハイカーも多くいるはずなので、経験値さえあればそこまで神経質にならなくてもいいなと感じた。
各山小屋の設備が充実していてかつ清潔なのも嬉しく、自分のような1日の終わりにシャワーを浴びてスッキリしたい人にもストレスないと思う。
ドイツ北部と比べてこんなに雰囲気が違うんだ、という新鮮な驚きもあったし、どこもご飯が美味しいし、これぞトラディショナルなドイツって感じでお気に入りの地域になった。